大阪障害者センター 壁ニュース

JD 2023年度特別セミナーを開催!

「壁ニュース」テキスト版 2024/03/13

JD 2023年度特別セミナーを開催!
~優生思想を乗り越え、障害者の人権を守る社会をめざす!~


 JD(日本障害者協議会)は、3/9オンラインで「2023特別セミナー「優生思想を乗り越え、障害者の人権を守る社会をめざす!―優生、虐待、精神医療問題の根本をつかむー」を開催し、全国から約300名が参加しました。
 このセミナー概要を紹介します。

【セミナー概要】
・開会あいさつ:石渡副会長、セミナーの意義、参議院での参考人発言、天畠議員の発言、
様々な課題を一緒に学びたい、どう方向性を見通すのか、運動を励ますセミナーに!

◎第1部 基調講演
『歴史の節目に何を観る 節目に潜む未来への手がかり 障害者権利条約と運動がガッチリと』/藤井克徳 JD代表
※白秋短歌の紹介(黒檜くろひ)より:事の本質を見定める事の大切さ
※歴史の節目を振り返って、私の体験、組織をつくることが原点、めざす会の会則から、「憲法に立脚」「要求を掘り起こすことと他の団体の尊重」こうした原点。参考人発言の趣旨を踏まえながら。「見てはいるけど本質看ていないのでは?」

Ⅰ この国の障害分野の政策水準をどうみるか
1.水準をとらえる4つのものさし
1) 市民一般の暮らしぶりと比べて
2) 日本と同水準の経済力を持つ国と比べて
※精神病床の国際比較、37%トップ
3) 過去と比べて
※日本の精神病床の比較
4) 障害当事者のニーズと比べて
※この物差しは今でも通じる視点

2.この間の障害分野の特徴
1) 変わらないこと (横たわる優生思想、医学モデルを含む父権主義政策、過度な分離政策、精神障害者施策の遅れ、個々の低所得状態、家族依存など)
※差別意識、偏見はやはり変わらない、「父権主義」の指摘も踏まえ、貧困線以下(日本の女性高齢者44%、障害者はそれ以上)
2) 変わってきたこと(国際潮流を中心に新たな理念の構築、民間団体や運動の台頭と実績、障害のある人の社会進出など)

Ⅱ 半生期をふり返っての主要な歴史的な節目
1.特筆すべき節目
1) 東京都の「希望する子どもの全員就学」実施(1974年)
都の独自施策ですべての障害児の教育権保障が実現。背景に、長年にわたる母親や教員組合の運動。国の障害児教育政策にも大きく影響。(それまでは、学校の教員投票で入学が決まった?)
※美濃部都政での大きな成果。その後国の制度に(5年後)
2) 国際障害者年(1981年)
国際女性年(1975年)、国際児童年(1979年)に続く、国連が定めた三番目の国際的な人権擁護年。テーマは、「完全参加と平等」。背景に1975年採択の障害者権利宣言が。
3) 宇都宮病院事件(1984年)
1984年3月に、宇都宮市にある精神科の宇都宮病院での凶悪な暴力・死亡事件が発覚。国の内外で厳しく問われ、精神科医療や社会復帰施設の制度化のきっかけに。
※滝川問題との違いは、国、国連の課題になったこと!
4) 障害基礎年金制度の創設(1985年)
自立生活の具体化に呼応する形での初の本格的な所得保障制度。最大の特徴は、「20歳以前に障害を受けた者については無拠出でも受給権」。保険原理に新たな考え方。
※無拠出年金、総評「労働者が煙草を少し我慢すればよい」
5) 「社会福祉基礎構造改革」公表(1998年)
国の財政構造改革の一環として、その基本を社会福祉施策にも導入。社会福祉施策を「サービス」と位置づけ、市場原理や応益負担を含む「福祉サービスは買うもの」を醸成。
6) 日本障害フォーラム(JDF)の結成(2004年)
国際障害者年以降のさまざまな取り組みを通じて、全国レベルでの「連絡組織」の必要性が唱えられるように。障害者権利条約へのまとまった対応が問われ、一気に結成の機運が。
7) 障害者権利条約制定(2006年)
2001年のメキシコ大統領による障害者権利条約の提唱に端を発し、8回の特別委員会を重ね、2006年8月25日に仮採択、本採択は同年12月13日(第61回国連総会)。
※その時歴史が動いた!
8) 障害者自立支援法違憲訴訟(2008年)
障害者自立支援法の施行(2006年)に伴い、応益負担制度が導入。これをめぐって訴訟に。
原告側の勝利的和解により、応益負担制度の撤廃を中核とする基本合意文書が成立。
※最初の集団訴訟、基本合意の意義(公文章)
9) 障がい者制度改革推進会議発足(2010年)
障がい者制度改革推進本部(本部長は総理大臣)の下に、障害関連政策を総合的かつ根本的に見直す審議体として発足(2010年1月)。構成員の過半数は家族を含む当事者。
※世界でもトップレベルの合議体
10) 「やまゆり園」事件(2016年)
2016年7月26日、「津久井やまゆり園」(相模原市)で利用者19人が刺殺、利用者・職員26 人が刺傷。犯人は、「重い障害者は生きていても仕方がない、安楽死させた方がいい」と。
※この件で安倍総理が発言!背景ではなく「精神福祉法の改正」どまり、
11) 優生保護法被害者初の提訴(2018年)
1996年の優生保護法改正 (優生条項の撤廃)以降も、国は被害者に対して謝罪や補償などを行なってこなかった。宮城県の被害者(女性)が、2018年1月に国家賠償を求めて仙台地裁に最初の提訴。
※最大・最悪の問題

2.歴史的な節目をふり返って思うこと
1) 「節目」の多くは民間(団体、運動)が深く関与
2) 労働組合の影響が大きかった1970 年代、1980 年代(人権問題の低落の相関関係?)
3) ひときわ光を放つ国際障害者年と障害者権利条約
4) 広がりつつある「訴訟運動」
5) 人権保障の拡大と根強い優生思想・差別意識の混在
※賢明な当事者・団体の取組と差別意識がまだ混在

Ⅲ 障害者権利条約を礎に新たな未来を
1.障害者権利条約と総括所見のとらえ方
1) 国際障害者年に次ぐ二度目の黒船
2) 問題点や重要視点の気付き装置
3) 急速な改革要請に伴う痛みの発生(成長痛のイメージ)
※のびとその指摘の格差
4)「よりまし論」を好まず、「本来あるべき論」で一貫
※人権論の基本的姿勢

2.忘れてはならない忌まわしい過去
1) 優生政策の主な標的とされてきた障害者
・ナチス・ドイツ時代(断種政策、「T4作戦」など)
※国際検証委員会総括から「生政策の根幹にあった課題として総括」
・日本の場合(国民優生法、優生保護法など)
※福沢「血統論」(1884年:優生学の翌年)、三宅紘一(東大教授:断種論者)
2) 優生思想は今も脈々と

3.障害者権利条約の制定の足あとと日本の批准
1) 国連の人権規範の蓄積
2) 障害分野に関する国際的な権利規範の蓄積(ノーマライゼーション・インクルージョン)
3) メキシコ大統領による提唱、特別委員会の設置、国連総会での採択
4) 日本での批准、発効(形式批准はだめ、基本法の改正を求めて)

4.障害者権利条約の概要と特徴
1) 全体の構成(前文25項目、本則50カ条、権利条約とは別の条約として障害者権利条約選択議定書)
2) 審議過程での特徴(くり返された「私たち抜きに私たちのことを決めないで」)
3) 内容の特徴
・固有の尊厳(第3条・一般原則)
・「他の者との平等を基礎として」(条約全文で335回登場)
・新たな障害観、障害者観(医学モデル偏重から社会モデルへ、人権モデルの重視へと)
・「合理的配慮」の明文化
※固有の尊厳(合理的配慮)他のものとの平等(高嶺の花ではあるが)障害の社会モデル※発生システムだけだはダメで、解決の手立てを
※定期的審査がある、総括所見が出された、270章、項の改善勧告(中心指摘:パターナリズム:父権主義:温情主義+権威主義)
※めざすべき方向:海の表層ではなく、その深部にも迫って改革すべき内容として指摘
※運動と重なることの重要性

5.すぐれた仕掛け
1) 障害者権利条約の実施状況についての定期的な国別審査
2) 国別審査に基づく総括所見(政府への勧告)の公表

Ⅳ あらためて運動の大切さを考える
1. 二つの規範文書に込められている運動の観点
1) 日本国憲法
・第12条
・第97条:自由獲得の不断の努力
2) 障害者権利条約
・第1条(目的)後段(障壁除去)
・第8条(意識の向上)1-(b)(差別偏見と戦うこと)
2.運動の本領
1) 獲得(中身をつくる)
2) 決別(父権主義との決別)
3) 改革(改善ではなく、創成、現状否定も)
※「魂の入った政策に」

3.運動をベースとしながらの当面の政策課題
1) 基幹政策の転換
・総括所見の指摘事項への対応
・政策審議システムの改革
・予算の拡充(政府予算全体に占める障害関連予算の分配率の引き上げ)
・国内人権機関の創設
・選択議定書の締結
2) 社会参加・地域生活施策の拡充
・働く場・活動の場
・住まい
・人による支え
・本格的な所得保障制度
・家族依存からの脱却(民法の改正も:明治時代からの長い歴史、オランダは家族扶養から社会扶養へ)

Ⅴ 一人ひとりに問われること
1.確かな羅針盤の保有(例えば「4つのものさし」「マイ権利条約」など)
※17条(そのままの状態で補償される)
2.複数の仲間集団を(ディスカッションや小さな他流試合を)
※独りよがりな思いにならないよう。
3.伝える力の研磨(思うことや知ったことを自身の言葉で)
※「伝わる力」が大切。インクルージョンは「みんな違って、みんなが良い」

Ⅵ むすび
・文献紹介:JD事典、障害のある人の分岐点、心の中から希望が切り離されないように(詩集)
※ユーレイズミーアップ(あなたは私を奮い立たせてくれる)

◎第2部 能登半島地震 現場報告/ 堀尾麗華さん 難民を助ける会(AAR Japan)

◎第3部 『差別・虐待の実態とその本質にある優生思想/優生保護法問題を斬る』
・コーディネーター/藤井克徳JD代表、藤木和子弁護士
・シンポジスト
①精神医療問題/持丸彰子さん(NHK大阪放送局ディレクター)
「メディアの立場からみる精神医療―滝山病院事件を取材して」
②虐待問題/船山暁子さん(弁護士)
「恵庭市障害者虐待事件」
③優生保護法問題/徳田靖之さん(弁護士)
「優生問題の真の解決のために 旧優生保護訴訟の経過と課題」
・指定発言/当事者から
・最高裁宛て100万人署名活動の意義と協力訴え/優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会から

○閉会あいさつ:増田常務理事
 長い時間と思ったがあっという間に過ぎ去った。見逃し配信もあるので学びなおしを。胸が詰まる話があり、いのちの重みに「軽重」がある。優生思想の克服の難しさ、藤井さんの発信に共感、以下提案
・恵庭事件へのカンパに協力しよう!
・優生裁判勝利への連帯
・やどかり出版物の普及を

 長時間のセミナーのため、全体をご紹介できませんが、JDでは、見逃し配信の準備もされていますので、詳細等はJD事務局までお問い合わせください。

 JDの藤井氏は、先般の参議院予算委員会で、れいわ天畠議員の参考人として参加、「障害者基本法の改正」を訴えるなどしていますが、今後の障害者運動の方向性を見定めていくためにもこうしたセミナーの内容等を理解し、議論していくことが求められています。