大阪障害者センター活動報告
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10/23に厚生労働省・障害保健福祉部から発表された、
「障害者自立支援法の実施状況について」への見解

2006年10月25日
特定非営利活動法人 大阪障害者センター 障害者生活支援システム研究会

 私たち、「障害者生活支援システム研究会」では、去る10月6日、厚労省記者クラブにおいて、「障害者自立支援法のサービス利用に関する全国影響調査結果報告」を行ないました。(詳細報告は、大阪障害者センターホームページに掲載)
 この調査は、障害者自立支援法の実施以降の、主としてサービス利用や利用料等の負担に係る影響の明らかにするものでした。
 この調査を通じて、(1)制度実施以降、サービス利用について、抑制が起こっていること。(2)各種の負担金額は、2−3万円程度の負担増となっていること。(3)こうした負担問題が、低所得者ほど逆進性が強く、深刻な影響を生じていること。(4)それでも福祉・医療サービスが障害者の生命と暮らしを支える制度であるがゆえに、単純にその利用を断念することができず、障害の重い人ほど深刻で、不安が急増していること。(5)こうした、福祉を必要とする人から制度を遠ざける仕組みは、本来の社会保障・福祉制度から逸脱した制度であり、その早急な改善を要求してきました。
 しかし、今回、突如公表された、厚労省の資料によれば、(1)全体のサービス量が増大。(2)グループホームの増加で地域移行の中核となっているサービスが着実に伸びている。(3)利用負担を理由とした利用の中止は減少している。(4)利用控えも低い水準である。(5)諸種の負担軽減策は大多数の利用者が適切に利用できている。等の見解が示されました。
 この結果は、調査手法の違い(市町村の福祉サービスに要する費用での調査と個人・世帯からの聞取り調査)が有るとはいえ、個人の思いや実態に着目した、当研究会の調査結果とは、異なる傾向が出されています。そこで、私たち研究会では、この提出された資料の検討を急遽行い(細かい資料が不足しているため、詳細分析が困難なところもありますが)この資料の持つ矛盾点を以下のように指摘します。

1、 サービス利用の増加の評価について
 今回のこの調査は、平成18年6月分の定点市町村(104)における障害福祉サービスの要する費用の動向をもとに集計されていますが、この定点市町村名及び選択理由も明らかにするべきです。その上で、この評価について、以下のような問題点が指摘できます。
(1) ここでのサービス増加の背景として、 当然、事業所サイドとしては、報酬減額や日割り方式の導入で、事業者としては、サービス利用の拡大を行なっている実態があるということです。また、生活保護等の方々から言えば、負担がゼロとなるため、より積極的な活用を図りたいという意向も強く出されています。
(2) 集計期日が昨年6月のサービス量との比較を行なっていますが、先の「支援費制度」は翌年の3月まで続いています。支援費制度は、すでに指摘されるように、サービス利用の増加を加速させました。したがって、6月から翌年3月までの利用の伸び率を無視して、さも全体が伸びているかのごとき分析は成り立ちません。支援法の影響を示すためには、H18年3月と6月の比較が行なわれるべきです。この点では、大阪府の行政調査等を見れば、その減少傾向は明らかです。
        
 

2、 退所者の累計評価について
 14都道府県での単純平均をもとに、集計評価が行なわれています。しかし、その実態数の評価に当たっては、きょうされん調査や当研究会調査にもあるように、「このままでは、維持できない。」等負担等の理由から、退所やサービス抑制を検討している人たちの把握が全くなされていません。福祉・医療サービスは、障害者にとってまさに生きていくために必要不可欠なサービスです。しかし、そのサービスすら負担が増大することによって、ボディブローのように生活を圧迫すれば、その後の見通しは全く成り立たなくなります。こうした制度不安を否定する調査といえます。

3、 利用控えや利用者数の推移に関る資料について
 この二つの集計は、利用控えについては(島根・千葉・和歌山・大分・三重・岐阜)の6県、合計利用者数については(岐阜・島根・山口・富山)の4県のデーターとなっており、最も支援費制度当時でも利用の多かった、大都市圏等の資料が含まれない(大阪などは一定のデーターを保有しているにもかかわらず)データーをもとに、全般的傾向を評価していますが、なぜこうした限定を行なったのか明らかにすべきです。(特に、改善要望が出された、府県や東北地域からのデーターが含まれていないことに大きな疑問を感じます。)

4、 所得階層区分の認定及び負担上限等の減免状況
 この点では、利用者にとっては死活問題であったことや、事業所サイドの努力などもあり、積極的活用は当然のことといえます。しかし、当研究会調査にあるように、実際は自己申請制度であるため、世帯分離や預貯金の問題などで、まだ躊躇がある実態も明らかにされており。この母数が真に必要な対象者であるかどうかは検証の必要性があります。
 また、こうした制度の利用によって、入所利用者の68.0%が利用料ゼロ、グループホームで68.1%が個別減免等の活用を行なっている等の評価が行なわれていますが、こうした制度活用の数字で実際の生活への圧迫の有無を立証することにはなりません。
全国で8都道府県(17.02%)242市区町村(13.13%)(※きょうされん調査;1890自治体対象、5/31二次調査結果から)にも及ぶ独自軽減策は、国の軽減策では不十分であることから講じられている実態をどう見るのかも大きな課題といえます。
 少なくとも、当研究会が一貫して指摘しているように、「障害ゆえの経費」が上乗せされている現実について、もっと適切な生活への影響を調査する必要があります。

5、実施状況の把握・評価を的確に
 こうした、データーの取り扱いの問題とあわせて、この資料の見方について幾つかの指摘をしておきます。
(1)市町村における障害福祉サービスに要する費用を基にした分析の場合、個人や世帯単位での傾向を把握することはできません。まして、様々な不安の中で、利用断念を考えざるを得ない等の具体的困難性を把握することにはなっていないことは制度実施状況の実態把握としては極めて不十分なものといえます。
(2)特に、当研究会調査では、所得階層ごとの傾向を分析し、所得の低い人ほど深刻な傾向を指摘していますが、厚労省の調査では、当然こうした所得階層別の傾向が分析できるものではありません。
(3)さらに、行政レベルの調査で言えば、すでに大阪府の調査も提出されており(表参照)、ここでは明らかに利用減少の実態が報告されています。厚労省には当然こうした実績報告もあがっているはずで、その他の生活環境等との相違点も含めもっと詳細な検討は可能なはずです。 
(4)制度実施が、障害者の暮らしにどのような影響があり、その点での制度の実効性かあるのかの実態を早急に把握する必要があります。生活とは単に「福祉サービス」だけで成り立つものではなく、様々な障害ゆえの経費も含め、新たな制度が、障害者の生活にとってどのような影響を与えているのかをもっと的確に把握する必要があります。
等、こうした状況報告が、安易に、制度の実効性が高いとして評価することについては慎重であるべきと考えます。
 また、今後この負担問題や利用料問題は、10月以降の、新支給決定や地域生活支援事業等の実施によって、トータルに検討される必要があります。
 地域生活支援事業についても、利用料減免等自治体間の格差が大きい中で、個々の障害者・児の世帯にどのような影響を与えていくのか、引き続き正確な実態把握が求められるところです。
 特に、障害者・家族の切実な声に押され、民主党などが改正法案を提出したり、全国の自治体で独自の軽減策が展開されたりする事態の中で、本法のあり方について、早急な見直しが求められています。
 にもかかわらず、こうした時期になぜ、このような不十分な資料を厚労省は発表したのでしょうか、その真意を測りかねます。むしろ恣意的に制度の有効性を強調するためだけの資料となっているのではと疑わざるを得ません。
 障害者・家族にとって、福祉・医療サービスは、生命と暮らしの要、障害が重ければ重いほどその必要性は高くなります。だからこそ、障害者・家族は、付和雷同して「不安」の声を上げているわけではありません。
 所得保障制度も不十分なまま、「定率負担」制度を導入することが、障害者・家族の「生命や暮らし」をどこまで脅かすのか、暮らしの実態に着目して、その制度の有効性を評価できるような、的確な実態把握と制度改善を早急に求めるものです。

(全国影響調査責任者;山本敏貢:大阪千代田短期大学副学長)



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