優生保護法被害者の補償法案、10日に採決か!?
優生保護法被害者の補償法案、10日の衆院厚生労働委員会で採決か?
~JD等から声明文も提案される中で~
優生保護法被害者の補償法案は低調な内容で、原告の皆さんの要望からみて課題が多く残るものですが、明日(10日)の衆院厚生労働委員会で採決される見込みとされています。法案そのものの審議ではなく、委員会の一般質疑の中で各会派委員が法案への問題意識があれば質す、という形で行われるようです。
この法案は、現在、全国7地裁で係争中の強制不妊手術による被害者の国家賠償請求訴訟等を意識して、急きょ、与野党合同の銀聯名等の合意を経て、提案されたものです。
国賠訴訟については、7地裁中トップをけって、仙台地裁が「審理は熟した」と3月20日結審し、5/28全国初の判決が出される予定となっています。
こうした国賠訴訟では異例のスピード結審となりましたが、被害者の高齢化等も配慮しての結審となり、旧法の合憲・違憲性を含めた判断が示される見通しとされています。
ただ、国は、こうした動向に対し、判決前に、こうした救済法を成立させることで、訴訟の先延ばしを画策したり、「どのような判決であれ、救済法の枠内で」との姿勢もあらわな中、裁判所ですら「救済法の内容と、国の法的責任は別個に考えるべき。」との原告側の訴えも出されています。
【救済法案の概要】
第1前文
・旧優生保護法の下、多くの方々が、生殖を不能にする手術・放射線の照射を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、我々は、それぞれの立場において、真摯に反省し、心から深くおわびする。
・今後、これらの方々の名誉と尊厳が重んぜられるとともに、このような事態を二度と繰り返すことのないよう、共生社会の実現に向けて、努力を尽<す決意を新たにする。
・国がこの問題に誠実に対応してい<立場にあることを深く自覚し、本法を制定する。
第2 対象者(旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者)
①又は②の者であって、施行日において生存しているもの
①旧優生保護法が存在した期間に優生手術を受けた者(母体保護のみを理由として受けたものを除く)
②①の期間に生殖を不能にする手術等を受けた者(イ~ニのみを理由とする優生手術を受け手術等を受けたことが明らかな者を除く。)
イ母体保護 ロ疾病の治療 ハ本人が子を有することを希望しないこと ニハのほか、本人が手術等を受けることを希望すること
※昭和23年9月11日~平成8年9月25日
第3 一時金の支給
1 一時金の支給
国は、旧優生保護法に基づ<優生手術等を受けた者に対し、一時金(320万円)を支給(非課税)
2 権利の認定等
①一時金受給権の認定は、請求都道府県知事の経由可に基づいて、厚生労働大臣が行う
② 請求期限は、5年(検討条項あり)
③ 都道府県知事・厚生労働大臣は認定に必要な調査を行う
3 旧優生保護法一時金認定審査会による審査
① 厚生労働大臣は、対象者(第2①)あることが明らかな場合を除き、認定審査会の審査を求める
※認定審査会:厚生労働省に設置し、医療、法律、障害者福祉等に関する有識者で構成
② 認定審査会は、請求者の陳述、医師の診断、診療録等を総合的に勘案して、適切に判断
③ 厚生労働大臣は、認定審査会の審査結果に基づき認定
4 相談支援等
① 支給手続について十分かつ速やかに周知(国・都道府県・市町村)
② 相談支援その他請求に関し利便を図る(国・都道府県)
※障害者支援施設、障害者支援団体等の協力を得るとともに、障害の特性に十分に配盧
第4 調査等及び周知
1 調査等
国は、前文で述べたような事態を二度と繰り返すことのないよう、共生社会の実現に資する観点から、旧優生保護法の優生手術等に関する調査その他の措置を実施
2 周知
国は、本法の趣旨・内容について、広報活動等を通じ国民に周知を図り、理解を得るよう努める
第5 施行期日
公布日(認定審査会については、公布日から2月後)
こうした法案に対し、各団体から声明文等が提出されています。
【JD】
「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」に対する緊急声明
当会は、「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的にした国民優生法とこれに続く優生保護法とその関連政策による被害は、人権に関する政策の中で最大かつ最悪の問題と指摘し、「優生保護法被害者に対する謝罪と補償等に関する提案書」(第1次)(第2次)を発表してきた。そして、2018年1月の仙台地裁への提訴に始まり、全国の7地裁で20人の原告による国に謝罪と補償を求める裁判を応援している。
3月14日、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」が発表された。被害者も高齢化していて、法案作成を急いだとあり、その姿勢については評価できるものの、あまりに不十分であり、到底謝罪の意を反映したものとは思えない。
わけても、補償金の低水準さには憤りを禁じ得ない。被害を受けた人たちは、国が定めた法律によって身体を傷つけられた。傷つけられた身体は元に戻ることはない。そして子どもを持つ権利・持つか持たないかを選ぶ権利をも奪われたのである。
また、他国の水準を参考にしたとされるが、なぜなのか理解に苦しむ。参考にすべきは、ハンセン病患者への対応など、国内の人権回復に伴う補償水準である。もし、他国を例にというのであれば、その国の障害分野や人権分野の政策全体を踏襲するものでなければならず、都合のいい部分のみの政策採用はどうみても恣意的と言わざるを得ない。
当会の提案において繰り返し述べてきたように、被害者の手術時の辛苦や屈辱、子どもを持てなくなってしまったことの絶望感は悔やんでも悔やみきれないであろう。しかし、取り戻すことはできない。今できることは、被害者の人権と尊厳を最大限に回復することであり、それへの証は第一義的には補償の水準でしか表せないということを明確に認識すべきである。
加えて、補償額以外にも多くの問題点がある。国の責任や違憲性の明確化、第三者性を担保した被害認定の仕組み、被害者からみて信頼に足りる検証体制の確立など、重要な点で、私たちの提言と示された「法律案」との間には大きな乖離がある。被害者の心情を察すれば、また意思の表示が困難な被害者が少なくないことを合わせ見れば、今回の「法律案」の不十分さは看過できない。
このような観点から、私たちは、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」については、大幅に見直すべきと考える。それは、部分的な修正ではなく、人権と尊厳の回復を前面に打ち出した新たな「法律案」のイメージである。引き続き超党派で知恵を絞り、「立法府で犯した過ちは、立法府で取り戻す」という視点で、根本に立ち入った「法律案」の再提出を切望する。
(2019.3.19)
【優生手術に対する謝罪を求める会】
「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」に対する意見
私たち「優生手術に対する謝罪を求める会」は、1997年から優生手術の実態解明と被害者への謝罪と補償を求めてきました。国会議員の皆さまが党の垣根を越えて被害者のための法律作りに努力なさり、去る3月14日に法律案を発表されたことは、私たちの要望が形になったことと受け止め、歓迎いたしました。
一方、いくつかの点については検討を求めたく、意見書を作成していたところです。また、宮城県で20年以上被害を訴えてきた飯塚淳子さん(仮名)、全国初の国賠訴訟を提訴した佐藤由美さん(仮名)の裁判では、5月28日に判決が言い渡されますので、それを見極めての法律案再検討を願っておりました。しかし、4月10日に国会に提案されるかもしれないと知り、次の点について充分な審議がなされるよう、この意見を提出いたします。
【前文について】
「国がこの問題に誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し」との文言は、評価しております。しかしながら、被害者の方々が、一様に口にされるのは、「責任を明らかにして、国に謝ってほしい」ということです。国による反省と内容の明確化、被害者への謝罪の表明が、人権回復の第一歩です。3月14日の法律案発表時には、「我々には、国会、政府、地方公共団体が含まれる」という説明が与党ワーキングチーム、議員連盟議連の国会議員の方からありました。そうであるならば、「我々は~おわびする」ではなく、「子どもをもつかもたないかを自ら決める権利を奪い、基本的人権を侵害したことに対して、国は、真摯に反省し、心から深くおわびする」としてください。
【一時金の金額について】
「求める会」は昨年、与党ワーキングチーム、議員連盟のヒアリングを受けました。その折りに、国会議員の方々が、被害者の人権回復に向けて努力される強い熱意を感じました。その皆さまは、一時金の額320万円に納得しておられるのでしょうか。被害者は心と身体に大きな苦痛をうけるとともに、人権としての「性と生殖に関する健康/権利」を奪われ、子どもをもつかもたないかを自分で決めることができなくなりました。現状の法案の金額では、優生手術等の人権侵害を小さなことだと評価していることになってしまいます。
この法律が、「相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現を目指すのならば、法案作成にかかわりを持った多くの関係者が誇りをもてるよう、いま一度、検討してください。
【一時金の対象について】
法律案が、同意があった場合も含め優生手術被害者約25000人を一時金の対象としたこと、法の規定を逸脱した放射線照射や子宮摘出などの被害も対象としたことは評価しております。しかし優生保護法が障害者差別だったという周知や啓発が行われなかったために、1996年の母体保護改定後も、障害を理由とした不妊手術や中絶、放射線照射や子宮摘出が行われたおそれがあります。期間の限定を外してください。また、優生保護法第14条1項1,2,3号に基づく優生上の理由による人工妊娠中絶も、謝罪、補償としての一時金の対象としてください。
【法律案第21条の調査及びその報告書、周知について】
法律案第21条が、「調査その他の措置を講ずる」としたことを歓迎いたします。形ばかりの調査にならないよう強く求めます。昨年、厚労省は、与党ワーキングチームや議員連盟からの要請に基づいて、都道府県、市町村、特別区、厚労省内部部局や関連施設、各医療機関や福祉施設が保有する優生手術についての資料や記録について調査しました。しかし、その調査は全く不十分と言わざるをえないものでした。例えば、医療機関や福祉施設については、「回答は任意。調査は個人の診療記録(カルテ等)やケース記録の洗い出し等の網羅的な確認を求めるものではなく、調査時点において把握している範囲内の情報について」回答を求めるというものでした。その結果、回答した医療機関や福祉施設は全体の約半数、個人記録があると回答したのは0.3%だけでした。各都道府県の公文書館や倉庫、医療機関や福祉施設等には、多くの優生保護法に関する資料や個人の記録が、探索も調査もされることなく埋もれたままです。実態解明に向けた調査は、端緒についたばかりです。
そこで、次のことを調査の項目とすることを提案します。
(1)優生保護法の成立や改定の経緯
①法成立の経緯 ②改定に関する論議
(2)優生保護法に関する国から自治体への働きかけの実態
①国からの通知および事務連絡のすべて
②地方自治体からの疑義照会および回答のすべて
(3)中央優生保護審査会(公衆衛生審議会優生保護部会)の運営
(4)優生保護法のもとでの被害の全容や各自治体における運用実態
―前述の厚労省によって行われた調査を、再度、より徹底して行う必要がある。また、教育分野に範囲を広げて、同様の調査を行う必要がある。特に、被害を訴えている方々がいたことのある施設や病院などについては、同様の手術が他の利用者にもなされていた可能性が高いので、重点的な調査が求められる。
①都道府県、市町村、特別区における行政機関(本庁、公文書館、保健所、母子保健関連情報集約機関、知的障害者更生相談所、身体障害者更生相談所、児童相談所など)に存在する優生保護法に関連する資料、障害を理由とした優生手術や中絶に関する資料や個人の記録の調査
②医療機関、福祉施設(障害者支援施設、障害者入所施設、児童養護施設、児童自立支援施設、婦人保護施設、保護施設など)、教育機関(通常学級、特別支援学級、特別支援学校、養護学校、教育委員会、学校保健機関)に存在する優生保護法に関連する資料、障害を理由とした優生手術や中絶に関する資料や個人の記録(カルテ、医務日誌、ケース記録など)の調査
③医療機関、福祉施設、教育機関については、当時、勤務していた職員や関係者に聞き取り調査を行う
(5)日本健康学会(旧日本民族衛生学会)、日本精神神経学会、日本精神衛生会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会(旧日本母性保護医協会)など、優生学や精神医療、産婦人科医療に関する学会における優生保護法についての関与
(6)教育の中での優生保護法についての関与
教科書、社会教育のなかでの障害を理由とした不妊手術や中絶の扱い
(7)障害者団体、障害者の親の団体、女性団体の優生保護法に関する取り組みや経緯
そして、上記の調査結果を報告書として公表すること、さらに報告書の知見を踏まえ、法律案第22条に定める「周知や理解」の内容に反映させることを強く要望します。 (2019.4.9)
立法の動向ととも、判決内容等、国賠等の訴訟を判決を受けて、同国が判断するのか、訴訟の意義を踏まえ、より適切な対応が求められるだけに、今後の法案成立後もその取り組みに注目が必要です。